二兎社39 鴎外の怪談

 主人公は、森鴎外。ただし、ここでは本名の森林太郎(金田明夫)で登場。しかし、扱っている主題は、幸徳秋水の大逆事件。そして、私の印象では、明治時代を舞台としながら、極めて現代的な物語だ。つまり、「他国が軍備を増強しているから、対抗しなければ」と言っている国に起こりえる出来事として。
 芝居が始まり、屋根が見えて、2階なんだと頭に叩き込む。日本風の部屋にテーブルとか、明治時代の日本のイメージってこうだなと納得。ただ、大量に積み上げられた座布団が気になる。これは客人のためなのか? しかし、客は、椅子に座るのだろうと。が、間もなく分かる。新妻のしげ(水崎綾女)が姑の峰(大方斐紗子)に隠れて寝るためだった。そのための衝立も。しげの味方は、最近やってきた女中のスエ(高柳絢子)のみ。そんな嫁と姑の話かと思ったら、やってきた、雑誌『スバル』を編集する平出修(内田朝陽)が、大逆事件の弁護をしていて、その相談に来たのだと分かる。その一方、林太郎は、親友の賀古鶴所(若松武史)とともに、山縣有朋と関係を持ち、大逆事件の処理の仕方について、相談も受けた一人だったようだ。その林太郎が、作品中では、「社会主義者、無政府主義者を陰謀によって滅し去るようでは文明国としての未来はない」というような主張もするので、山縣に彼を紹介した賀古は困っているのだった。
 このあと、『三田文学』を編集する永井荷風(佐藤祐基)も登場して、大逆事件をでっちあげる政府への批判も聞かれるのだが、林太郎は、結局、直接、山縣にでっち上げを正すよう進言することはしない。恐らく、機会はあったのだろうが。母の峰が、山縣のもとに向かおうとする林太郎に向かって、自分は武士の娘だと言って、「お前が一歩でもそこを動いたら、私は死んで山縣公にお詫びする」と引き留める。昔から、日本人は(と言ってよいのか分からないが)、こうした義理とか人情とかと、正義との間で悩んで、そして、義理、人情を優先してきたのかもしれない。その陰で、犠牲になる人がいても。
 それを「撃つ」立場にいるのが、女中のスエだろう。様々な会話を耳にして、「私には分かりません」と言いながら、実は、大逆事件の被告の一人、死刑になった大石誠之助と同郷で、彼に西洋料理を習ったのだと言って、林太郎に彼を助けてくれるよう懇願する。その時に、彼から習ったシチューを作って出すのだが、この時、本当にシチューのよい香りが漂ってきた。この願いの強さを印象付けるように。
 「怪談」というのは何故なのだろうか? 2場の最後で、エリスと思われる「裏切者」という声が聞こえてきたり、3場の最後で、津和野時代の記憶として、鞭打たれる隠れキリシタンの祈る声が聞こえてきたりするのだが。
 永井荷風が、こんな「真面目な」人間だとは知らなかったが、永井愛の解釈では、この事件に衝撃を受けて、戯作に向かったということなのだろう。林太郎を止める、峰の姿が、「時の物置」で草村礼子が演じていた女性の姿とダブった。そして、インタビュー番組か何かで永井自身の祖母の話として聞いた記憶があるのだが、泥棒が入ってきた時に、「無礼者」だったか、一括して黙らせた武士の出の女性の姿とも。
 森茉莉と小堀杏奴の名前も出てきて、鴎外ファンにはくすぐられるところもあったと思う。

 11月20日午後7時 新潟市民芸術文化会館劇場
21/12/2014

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