- 永井均,『私・今・そして神』,講談社現代新書,2004年
文体も独特だし、議論の水準も高く、かつ丁寧さに欠けた本で、苦労したと思います。しかし、やはりテーマに魅力があるためでしょうか。報告もおもしろく、議論も盛り上がりました。90分じゃ足りないですね。
報告は、著者の哲学を検討するというよりは、著者の問題設定に刺戟された報告者が、自らの〈私〉や〈今〉についての直観を頼りに、自ら哲学を実践してみせるという形式でした。報告者を含む出席者の現在の知識や、哲学的議論の繊細さに対する感受能力を考えると、まさにベストな形式選択だったと思います。夢の話、パーフィットの火星転送の話、『転校生とブラック・ジャック』の手術の話、いろいろと面白い話題と、それについての報告者自身のアプローチを示してくれて、出席者の思考を大いに喚起してくれたのではないかと思います。
いくつかは議論の中で指摘されましたが、この経験を通じて、報告者は、自分の(私秘的な)直観と、それを議論に載せるための(公共的な)言語の間の齟齬を感じざるを得なかったのでは? 大雑把にいえば、言わんとすることが言えていない、言うつもりのないことを言ってしまっている――そういったことは、玄人の学者にもあることで、先行研究を批判的に検討する際には非常に有効なポイントです。(この齟齬こそが哲学の問題をつくっているという見方もある。)今後の読書・研究に活かされることと思います。
司会者も、自分なりのまとめ、問題点抽出、出席者へのネタ振りなど、活発にやってくれて、うまい展開でした。報告者との打ち合わせも念入りだったのだろうと思いました。あと、司会者が元気だと場が活発になりますね、ということも再確認できました。
なお、著者は一昨年に新大人文学部に講義に来ており、そのときの内容が『なぜ意識は実在しないのか』という本になっています。今日私が口走った「ゾンビ」の話も出てきますので、興味のある向きはぜひどうぞ。〈私〉の問題がいまいちつかみきれていない人は、『翔太と猫のインサイトの夏休み』、『〈子ども〉のための哲学』からどうぞ。
ああ、あとそれから、今日は出席者の一人が、クッキーを焼いてきてくれました。おいしかったです。どうもありがとう。(でも途中で気管に入ってむせたので、次回は飲み物もっていこうと思います・・・)
以下、出席者のコメント。
- 本の内容がむずかしかった。
- 結局「私」って何なのでしょう? 昨日意識のあった私の意識がなくなっていても、今の私にはわからないです。クッキーの次は何がいいでしょう?
- 難しい内容でした。人によっていろんな解釈があっておもしろかったです。あと、クッキーおいしかったです。ありがとうございます。
- ちゃんと謝ろうと思っていたのに、うっかりふざけてしまいました。
- 考えることが抽象的すぎてよく分からなくなった。『時間』の過去・現在・未来についての所も議論したかったけど、時間がなくてできなかった。
- 哲学するとは何なんでしょう。
- 哲学とは価値を考える学問である、という人がいる。僕は哲学は思考する喜びであると思う。
- 報告者の感想 皆さんがどんどん意見言ってくれて助かった。司会者にもありがとう。
- 司会者の感想 司会オワタ! 司会はとても難しいです。すいません。主張の柱がとらえられなくてつかみどころのない司会進行になってしまいました。理解不足です。もっと他の人の司会に注目して勉強したいと思います。クッキーうまし!