懐かしのマンガ2 水野英子『白いトロイカ』
今回は水野英子『白いトロイカ』(1965)です。
前回に引き続き、ロシアものです。
暑いときには涼しいところのものを、です。
18世紀末から19世紀なかばの帝政ロシアを舞台に、
叛乱貴族の娘ロザリンダの数奇な運命が語られます。
「難しいからダメ」と編集部から掲載をしぶられた作品ですが、
その理由は「農奴解放」というテーマにあるようです。
そんなもの、女こどもにはわかるまい、といったところでしょうか。
60年代の少女マンガの位置づけを如実に語るエピソードです。
水野英子(1939-)は少女マンガ界のゴッドマザーともいうべき存在です。
「24年組」の作家たちも水野作品を貪るように読んで育ったとおり、
彼女がいなければ少女マンガの歴史も随分違っていたかもしれません。
水野作品の魅力は、大胆な構図と闊達な描線が語りを牽引するところにあります。
ドレスの襞や巻毛や花びらが、波打ち、うねり、舞う。
こうなると単なる装飾の域をこえ、ドラマの根幹となります。
まさにバロック。
ここで勝手に名づけてしまいますが、水野作品は「バロック・コミック」であります。