- 田村秀,2007,『自治体格差が国を滅ぼす』,集英社新書
今回の報告は、著者が「勝ち組」「負け組」等と評価語を用いているにもかかわらず明示していない、自治体の勝ち負けを判断するための評価基準を、報告者自らが自分の立場として明示的に定式化し、それに基づいて、本書から3つの事例を取り上げ、追加情報を補足しつつ、事例ごとに評価をくだしていき、最後に自分の出身自治体の事例を紹介する、という趣旨のものでした。
報告者は、自治体の存在意義は「産業」にこそある(のであって住民の福祉にではない)という極端な立場を打ち出しました。極端な立場をあえてとるのは、それでどこまでいけるのか、どこで破綻するのか(なぜ「極端」なのか)を測るという点では、なかなか有意義な戦略です。
ただそのためには、その立場選択に由来する結論、それを聞いたオーディエンスの強い反応、これらに耐えうるだけの強靭さが必要です。今回報告者には、自分の立場選択に見合うだけの強靭さが欠けていましたね。(しかしそれにしても他の出席者の反応は、far from 遠慮会釈、って感じでしたね・・・自分の番がまだなのにあえてハードルを上げるその心意気に感服しました(笑))。
さて、何人かの出席者が触れている最後の方の議論ですが。自治体がそこに生きる住民の福祉・厚生・幸福の維持・増進を目的とするとして(これは報告者の立場からは完全に離れた前提ですが)、はたして「ここで暮らしたい」という住民の希望は、他の人の「権利として保護されない幸福」を減じてでも保護すべき不可侵の「権利」であるのか、それとも全体の幸福量の維持・増加のためには減じられてもよい相対的な価値にすぎないのか、これが出席者の間で先鋭に対立したのでした。正義論的にきわめて重要な論点です。この問題はつきつめていくと、人間の幸福は、育った地域や文化と切り離して捉えることのできる抽象的なものなのか、それともそういう切断は(概念的に)不可能なのか、というさらに基礎的な問題へとつながっていきます。今後の演習の中で、また各人それぞれ、考えていってくれたらと思います。
司会者には、混迷を深めていく議論の舵とりを多少無理めでお願いしてしまって申し訳ない、と思いますが、でもまあそれが仕事だから(笑)。
以下、出席者のコメント。
- しっかり考えてレジュメを書こうと思いました。
- 今日一番の問題点は、論点が曖昧だったところです。問われたことに、正確に返答する意識が必要だと思います。
- いろんな意見が聞けておもしろかったです。少し発表者に厳しかった気がします。
- 話し合いに参加していくのが、とても大変でした。今、自治体にこうしてほしいという要望や希望がないので、そういう意識を持つようにしていかなければいけないのかなぁと思いました。
- 議論は飛びましたが、白熱した論もあったので面白かったと思います。ちゃんと論の中心をとらえて発言できるようになりたいです。
- 皆の議論に圧倒されまくりでした・・・。もっと発言してアピールしていかないとと思います。今回の内容は授業に拘らず今後も考えていかなければならない問題だと思いました。
- 2回今回は本を読んだけれど、この間の回に比べると全然話せなかったので完全なる勉強不足だなぁと思った。次はきちんと自分の意見を言えるようにしたい。
- もう少し考えてしゃべれるようにすべきだと思いました。その場の議論を成り立たせるだけでなく終始の議論の流れをつくっていけたらいいと思いました。
- 全然しゃべれなかった。なのでもっとよく本を読んで意見をまとめられるようにしたい。今回は勉強不足だったと思う。
- 言葉遣いを皆に合わせた方が良いと思う。○山さんとハ○○ョーがスゴいなと思った。・・・いや、スゴイッす。自分には真似できないです。
- 全体的に話の構造をつかめなかったので、それをつかめるように努力したいと思った。
- 報告者の感想 最後の議論はとてもすばらしかった。ごめんなさい、こんなぐだぐだなレジュメを作ってしまって。
- 司会者の感想 議論の流れをコントロールするのは難しいです。最後の方の議論は良かったと思います。あのような議論をもっと早い段階でできればなぁと・・・。司会が上手くできなかった分、次回以降は積極的に議論に参加したいです。