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桑取調査

学内の「ソーシャル・キャピタル研究会」による3ヶ所目の調査地として、上越市西部の中山間地にある桑取谷を訪ねてきました。ここは「かみえちご山里ファン倶楽部」というNPOがさまざまな活動を展開している地域で、このNPOメンバーの方々のお話を主にお聞きし、活動の現場も案内していただきました。

今年の冬は、村の古老も経験がないほどの少雪だったそうですが、お邪魔した3月中旬の時点でほぼ雪は消えており、例年なら通行止めになっている道路も通ることができました。
桑取谷は、桑取川の谷間に点在する25の集落からなり、人口は全体でおよそ2,500名を数えます(先日、NHKの大河ドラマ「天地人」にも登場していました)。この桑取谷を活動の場とするNPO「かみえちご山里ファン倶楽部」は、2002年設立で、とくに地域の伝統文化・行事・技術などの掘り起こしと活用に力を入れています。また、上越市から「地球環境学校」、「くわどり市民の森」の管理運営を受託し、こちらも活動の柱になっています。
このNPOに特徴的なことは、出身地や専門分野を異にする常勤の若いスタッフが8名もいることです。環境や農業、里山の文化などに関心をもつ若者がNPOに集まり、地域に深い敬意と愛着をもちながら熱心に活動していることがとても印象的でした。
NPOのリーダーである関原氏は、これらの若いスタッフに「正義面をしない」ことを求め、ムラ人と都市住民の中間で「宙吊り」になって両者を媒介する「紐(ひも)」になって欲しいとおっしゃっていました。考えてみると、これはなかなか難しい要求です。たいていの場合、人は自分が正しいと思いたいものだし、愛着を感じるとそこにどっぷりとつかりたくなるものです。「宙吊り」の状態に居続けることによってこそ、視野狭窄を防げるのだというお考えでした。
関原氏のお話の中でもう一つ印象的だったことは、地域や自治のサイズにかかわる問題です。一つの集落よりも大きく合併前の旧町村よりも小さい(明治期の小学校区ぐらいの)サイズを関原氏は「クニ」と呼び、このクニをコミュニティの基本単位とすべきだということでした。たしかにこのサイズだと、身体的にも地域のリアリティを感じつつ、ある程度顔の見える関係を築くことができるし、単一の集落よりも多様性をもちながら外部とつながっていく可能性もありそうです。
ただし集落(ムラ)はそれぞれの歴史的な背景や特性をもっているので、それが結びついてクニになることは、それほど簡単ではありません。関原氏は、しがらみのないNPOのスタッフに、ムラをつないでコミュニティを結い直す「紐」の役割も期待していました。こうして形成されたクニが、外部(都会)とつながりつつ、独自の経済を営んでいくことが構想されています。広域合併が進む中で、暮らしや自治の単位をどのようなサイズで考えるかということは重要な問題ですが、桑取谷の試みは一つのヒントになると感じました。
夜には、NPOの活動において重要な役割を果たしている地域の人びとにも来ていただき、盛大な交流会が催されました。スローフードのおいしい手料理もいただきつつ、夜更けまでにぎやかに過ごすことができました。NPOが機能していくためには、スタッフの熱意とともに、こうした地域の方々のサポートも不可欠だと思います。私自身は時差ボケとふだんからのボケが入り交じってぼんやりした状態でしたが、多様な根をもつ多くの人のお話をうかがうことができて、とても楽しく、勉強にもなりました。
お世話いただいた「かみえちご山里ファン倶楽部」の皆さま、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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