« 2009年6月 | メイン | 2009年8月 »

2009年7月

2009年7月31日

人文総合演習A 第6回の補講


今回は、諸般の事情による仕切り直し回でした。そして最終回。

報告は、「トラウマの科学化」に否定的な著者の議論を受けたうえで、語られる内容としてのトラウマそれ自体ではなく、「トラウマ語り」という行為形式の方を学問的研究の対象とする可能性を追求したものでした。

具体的には、報告者自らが聞き手となって収集した5つの「トラウマ語り」エピソードをトランスクリプトの形で紹介し、そのそれぞれについて、(1)語られる「原因」、(2)語られる「結果」、(3)語ることによる「効果」を特定し、さらにそのうえで、それぞれの特徴を分類していく、というものです。オーソドックスな科学的方法論ですね。データそれ自体は何も教えてくれないが、そこにちょっと手を加えるだけで、突如として雄弁になる、ということがよくわかります。

議論にもなったし、私自身も疑問を感じたのは、語りの効果についての報告者の一般理論の部分です。語りのメディアとしては、(1)他人との口頭コミュニケーション、(2)日記/ブログなどによる特定/不特定多数への発信、(3)歌/アート/書籍などによる不特定多数への発信、といった別があることを指摘しつつ、しかしそのどれもが「他者との共有」という、肯定/否定の彼岸にある中立的効果に一般化できるというわけですが、それはどうかなあ。

おそらく、報告者は、語り手の「思い」を中立的に共有することのできる性格的特性、というか、世渡りの仕方を、比較的無意識的に身につけているのではないでしょうか。だからこそ、報告のネタになるほどの多様性に富んだ事例を収集することができているわけですが、他方でそのせいで、他に様々に可能なはずの語り/語られ関係のあり方が見えにくくなっているのではないか、と。まあこれは私の思いつきですが。

しかしいずれにしても、出発点は自分の直観でしかありえません。直観からスタートし、それをできる限り非直観的な水準にまで展開した上で、他人の前で披露することで、自分の議論がいかに自分の直観になおも支配されているかを指摘される・・・ 研究というのはそうやってしか進んでいかないのであって、そういう意味では正しい一歩の踏み出し方だと思います。

さて今回の司会は何を隠そう私なんですが、それなりにうまいことできたんじゃないかなと思ってます(あくまで、「それなりに」ですが)。心がけたのは、ここは説明不足かなと思ったら、報告の途中でも口をはさんで補足をしてもらうことによって、聞き手の理解がスムーズになるようにすること、それと、質問者には、報告者からの回答に対して、再質問や意見の相違の表明を求めることで、質問しっぱなしにはしない、とかですかね。まあ、下の感想にも書きましたが、それがちゃんとできてたと確信もって言えるほどじゃあないです。

続きを読む "人文総合演習A 第6回の補講" »

2009年7月30日

人文総合演習A 第15回


憲法って、小学校から学んでいる割には、その基本的な性質すら、きちんと理解されていることは少ないわけです。立法権力が国民を縛る法律をつくり、その枠内で行政権力が国民に対して権力を行使する。そういう意味で、民主主義というのが国民を拘束するものであるのに対して、憲法は民主主義的に決定され行使される権力作用を拘束するという関係にあること。またそうやって権力を縛る憲法が、単なる書かれた決まりにすぎないのではなく、憲法の文面それ自体よりも大切なもの(人権保障)を実現することを目的とするものであること(立憲主義)。

報告では、そういった基本点をおさえつつ、9条を取り上げて、それが平和主義を謳いながらも、戦争の不在という消極的な定式による国際平和にすぎず、国内の平和を保障するものになっていないことが指摘されました。

これはおもしろい問題提起なんですね。つまり、戦争というのは「国権の発動」なんで、その放棄や武力保持の禁止は、国家権力を縛るという憲法のあり方に合致するわけです。他方で、じゃあ国内の平和を保障しようと思ったら、犯罪を厳しく取り締まるとか、駄目な人間を作らないように、また「○○心」をもった人間を育てるために思想教育を強めるとか、基本的には国家権力による国民の自由の制約の方向に行くわけです。これはちょっと憲法っぽくない。そうしたことを立憲主義の枠内でどう処理すればいいのかというのは、なかなか考えどころだったと思うのですが、提起だけで終わったのは残念でしたね。

報告者には打ち合わせのときから言っていたんですが、報告を作成する際には「粘り強さ」が大事。一つの問題提起から、論理的に導かれる様々な可能性、他の条件を追加することによってさらに派生する様々な可能性、こういったものを一つ一つ検討してつぶしていく粘り強さです。

直観は大切なんですが、直観というのは要するに様々に可能な論理経路群の中の一つにすぎないわけで、他の人も共有しているとは限りませんから、直観だけで進められると(゚д゚)ポカーンてことになりかねません。出発点は直観でいいので、そこから思考の力によって論理的分析を行い、他の人の直観であるかもしれない経路にも触れつつ、そういった可能性のなかでなぜ自分の立場が正しいのかを説得的に示す。こういった議論が粘り強い議論です。報告者は後期がんばると言っているので、後期はそれに期待しましょう。

司会者は、単位にもならないのに司会を買って出てくれてありがたかったです。話題設定等、場を方法論的に支配し、かつたとえば発言者が偏らないように、といった配慮も感じられました。

続きを読む "人文総合演習A 第15回" »

2009年7月27日

社会学概説Dの授業資料(2009.0727)

資料をプリントアウトするとき、印刷画面上でPDFの印刷画面上で以下の操作をしてください。「ページの拡大/縮小」を「1枚に複数ページを」にし、「1枚あたりのページ数」を「9」にし、「ページの順序」を「横」にすると、1枚に9ページ分が印刷できます。この操作をしないと、印刷枚数が多くなりますので、かならずこの操作をしてください。

社会学概説Dの授業資料(2009.0727)です。

2009年7月26日

新書を読む

竹田青嗣『中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ』、佐野眞一『目と耳と足を鍛える技術―初心者からプロまで役立つノンフィクション入門』(これは昨年出版された)、福岡伸一『世界は分けてもわからない』、橋爪大三郎『はじめての言語ゲーム』、佐々木敦『ニッポンの思想』、と最近出版された新書を立て続けに読んだ。どれも面白いが、前の3冊は後の2冊より面白かった。

2009年7月23日

人文総合演習A 第14回


先週に引き続いて体調っていうか頭の調子が思わしくないんですよね。するとどうなるかっていうと、教員としての立場を維持するための緊張感がなくなって、超然としていられなくなるわけです。まあ、所詮思いつきでしゃべってるだけなんで、基本的には穴だらけだと思いますので、「先生のお言葉」的にはとらないでくださいね。あとまあ、逆に言うと、議論に参加しないではいられないくらい、テーマが面白いということでもあるんですけどね。

さて今回の報告者は、以前自由について報告した人で、そこでは「自由を認識するためには他者が必要なのであり、その他者とは自己と違いのある存在である」と主張したわけですが、それを受けて、今回はそこで検討が不十分であった「他者」について考察すると、そういうシリーズものになっています。こういうのはいいですね。大学の授業って、表面的にはバラバラで、だけど水面下では(担当教員が気付かないところで)相互に連関していたりするので、自分で学期とか年度のテーマを決めて、自分の関心に合致した地下茎を見つけ出すとかね。これはもう、そうしないときと較べて10倍は有意義でしょう。

内容としては、現代人(=オタク)が他者性のない他者を求めるという著者の見解に反して、他者による「他者性のない」反応によって自己が肯定的感覚を得られるのは、まさにその相手が他者性をもっているからである、とまあ私なりにパラフレーズすればそういう議論でした。他者的な他者だからこそ、その人が珍しく他者的でない反応をしたら嬉しい、みたいな感じですよね。ツンデレ的というか(笑)。

自制を失っている(笑)私がつっこんだのは、そういうときの他者の他者性というのは、どの水準での自己との差異によって規定されるものなのか、ということです。根っこから幹から枝葉まで全然違う、ということが他者らしさだとしたら、そんな人と、ある瞬間に見解が一致したところで、それはただの偶然であり、自己が求める肯定感は得られないんじゃないの、と。

ツンデレの話は、いま書きながら思いついたのですが、そのまま議論を続けてみると、普段ツンツンなのが、ある一瞬デレっとしたときに嬉しいとしたら、それは、普段のツンツン(=差異性)が仮象(Schein)であることが見え見えで、デレこそが本質、という基本認識があるからではないでしょうか。えーと、知らんけど(笑)。

まあ、ともかく、面白い議論なわけで、報告者のアプローチも、それがどこまで持ちこたえられるかが気になる、という点でまだまだ修正を続けていってほしいところです。そのためには、他者であるための条件規定、自己が得る肯定感の内実、他者が自己にとって重要であるための条件規定、自他間の差異の水準分け、水準による差異の重要度や意味の違い、などなどについて、より詳細な議論を組み立てることです。もちろん、先行研究を勉強することも大事ですが、勉強だけしててもダメです。「本書を理解できるのは、本書に書いた思想を、自分で考えたことのある人だけだ」ってウィトゲンシュタイン先生も言ってますしね!


以下、出席者のコメント。

続きを読む "人文総合演習A 第14回" »

2009年7月17日

現代社会学Bの授業資料(2009.0722)

資料をプリントアウトするとき、印刷画面上でPDFの印刷画面上で以下の操作をしてください。「ページの拡大/縮小」を「1枚に複数ページを」にし、「1枚あたりのページ数」を「9」にし、「ページの順序」を「横」にすると、1枚に9ページ分が印刷できます。この操作をしないと、印刷枚数が多くなりますので、かならずこの操作をしてください。

現代社会学Bの授業資料(2009.0722)です。

2009年7月16日

人文総合演習A 第13回


鼻がつまったりすると、わかるんだ。今まで呼吸を、していたこと。――はい、えーと、というわけで、鼻はつまってないんだけど、熱が出て、ちょっと教員が朦朧としている回でした。朦朧としていると、周りへの気遣いができなくなるんですよね。なので、直観的に正しいと思ったことと論理だけの、すごく簡単なことを口走ってしまうという弊害が出てしまいます。逆に言うと、いつもは正解は求めず、周りへの思考喚起的な発言をしようと試みているわけですがー。

さて、今回の報告者は、いまどき! そしてこのネタなのに! 自宅にネットを引いていない貴重な人材でした(笑)。もちろん、ネット利用体験もかなり少ない。そうなってくると、本書を読んで、また報告の準備をする中で、自分がなんとなく知っているものを言語的に明晰な言説知識(discursive knowledge)にする、ってことはちょっとできない(なんとなくも知らないわけだから)。そういうときどうするか。

報告者が選んだのは、自分が比較的馴染んだネタと、本書から得られる、自分にとって比較的疎遠な知識を比較し、その比較の参照点として要請される抽象的概念を明確にする、という道でした。つまり、「議論」という抽象的観点から、その一つの具体化であるネット上の議論と、またもう一つの具体化であるこの演習という場での議論とを比較し、そもそも議論とはなんなのか、良い議論とはなんなのか、について考察を深めていくわけです。

その際には、対面であるかないか、匿名であるかないか、時空間の共有があるかないか、主題選択の自由度がどの程度あるか、といった、コミュニケイション一般の水準での種類の違いをどう捉えるのか、そして、議論という特殊なコミュニケイションにとってそれらの違いがどんな意義を持つのか、議論というコミュニケイションに参加することが、参加者各自にとってどんな意義を持つのか、といったことが問題になってくるでしょう。

朦朧としながら私が言ったのは、議論というのは、言葉を用いたコミュニケイションによって到達可能であるような正解が存在すると信じる人たちの間の、その正解を求める努力のことだ、みたいな感じだったと思うのですが、朦朧としていたのであんまり覚えていません。しかしまあ、だからこそ、(たかだか共同の意思決定を目標とするだけの)「会議」はつまらないが、「議論」はおもしろいんだ、ってことは伝わったのではないでしょうか。わかんないけど。


以下、出席者のコメント。

続きを読む "人文総合演習A 第13回" »

比較地域社会学の授業資料(2009.0717)

資料をプリントアウトするとき、印刷画面上でPDFの印刷画面上で以下の操作をしてください。「adobe PDF」にし、さらに「ページの拡大/縮小」を「1枚に複数ページを」にし、「1枚あたりのページ数」を「9」にし、「ページの順序」を「横」にすると、1枚に9ページ分が印刷できます。この操作をしないと、印刷枚数が多くなりますので、かならずこの操作をしてください。

比較地域社会学の授業資料(2009.0717)です。

2009年7月12日

最近読んだもので面白かった本

最近読んだもので面白かった本を紹介します。石城謙吉「イワナの謎を追う」岩波新書、中川敏「言語ゲームが世界を創る 人類学と科学」、星野博美「転がる香港に苔は生えない」文春文庫。石城さんのイワナの本はとにかくメチャ面白い。研究者の鏡ですね。見習たい。

社会学概説Dの授業資料(2009.0713)

資料をプリントアウトするとき、印刷画面上でPDFの印刷画面上で以下の操作をしてください。「ページの拡大/縮小」を「1枚に複数ページを」にし、「1枚あたりのページ数」を「6」ないし「9」にし、「ページの順序」を「横」にすると、1枚に6ページないし9ページ分が印刷できます。この操作をしないと、印刷枚数が多くなりますので、かならずこの操作をしてください。

社会学概説Dの授業資料(2009.0713)です。

1 | 2

カレンダー

<< 2012年12月 >>
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
Powered by
Movable Type 5.2.3