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2011年9月26日

●報告:学術交流講演会「人文学のいま現在2011」

平成23年度愛媛大学法文学部と新潟大学人文学部の学術交流講演会
「人文学のいま現在 2011」

日時:平成23年9月24日(土)13:00~17:00
場所:愛媛大学総合情報メディアセンター・メディアホール

「人文学のいま現在2011」ポスター

今年度で2回目となる愛媛大学法文学部との学術交流講演会「人文学のいま現在 2011」が去る9月24日に開催され、成功裏に終了いたしました。

愛媛大学法文学部人文学科からは高安啓介先生(美学)、諸田龍美先生(中国文学)のお二人が優れた講演をされました。本学人文学部からは中村隆志先生、廣部俊也先生がそれぞれ、お二人が近年進められている研究の一端を紹介されました。

愛媛大学法文学部人文学科からの登壇者はお二人、高安啓介先生(美学)、諸田龍美先生(中国文学)でした。それぞれ「美学という学問への問い」と「文学研究における個別と普遍-『長恨歌』を例として」と題した、優れた講演をされました。

高安啓介先生
諸田龍美先生
中村隆志先生
廣部俊也先生

高安先生は、現在の美学はどうあるべきかをドイツ観念論哲学に遡って批判的に検証され、複数の美が存在する、あるいは美が追究されなくなっている現在で美学という学問が何をすることができるかを問われ、美学が感性の認識の学から「感性の交通の学」へと展開してゆく必要があり、映像論、メディア論、サブカルチャー論、デザイン論へと対象を拡大してゆく必要があることを説得力をもって論じられました。ご講演は、先生が、上記の理論を教育の実践の場でどのように活かしていらっしゃるかにも及び啓発するところの大きいご講演でした。
諸田先生は「文学研究における個別と普遍」という大きな理論上の問題を『長恨歌』がなぜ傑作であるかという瞠目すべき観点から取り扱われました。先生は、『長恨歌』の結句「天は長く地は久しきも 時有りてか尽きん / 此の恨みは綿綿として 絶ゆる期無からん」に着目され、一般には「此の恨み」は「玄宗の悲哀」を意味すると解釈されているが、唐代の用法を調べると「此の恨み」という語が「愛するものと死別する悲しみ」として使用されていることを指摘されました。この事実に基づき、諸田先生は、『長恨歌』の結句は普通理解されているのとは違い、たんに玄宗の悲しみを指し示しているのではなく、「人間に普遍的なもの」としての「悲しみ」を意味していると指摘されました。『長恨歌』は玄宗と楊貴妃の悲恋という個別を描きながら同時に個別性を越えて人間に普遍的な、愛するものとの死別の悲しみを歌っているが故に傑作なのであると結論されました。高安先生の美学理論と呼応しつつ文学作品を例として論じられた見事なご講演でした。

人文学部からは中村隆志先生、廣部俊也先生がそれぞれ「非言語コミュニケーションとしての“ケータイディスプレイを見る行為”」および「ある浮世絵の制作に見る江戸の文事」と題して、お二人が近年進められている研究の一端を紹介されました。
中村先生はケータイの使用の中でもディスプレーを見る・見せる行為に焦点を合わせ、ケータイが普及し始めた十数年前からケータイが多機能化している現在までの経年変化を跡づけ、見る・見せる行為の意味および時代変化を具体的に示され、聴く者に新鮮な驚きを与えられました。
廣部先生は、最近集中的に取り組まれている江戸時代の浮世絵の「見立て」(「やつし」)を北斎と南畝を中心に論じられました。「朝妻船」の画題を例に、南畝が画賛を記し北斎が当世風の絵に仕立てるといった江戸後期の文人たちの文学と絵画の共同作業に光を当てることによってこの時代の文化の新しい側面を浮き彫りにしました。

それぞれの講演の後には短いながらディスカッションの時間が設けられており、活発に質疑応答が交わされました。

黒木幹夫学部長 中原ゆかり先生 關尾史郎学部長
「四国遍路と世界の巡礼」チラシ

また、学術交流講演会に先立ち9月24日午前11時から一時間半ほど黒木幹夫学部長を初めとする愛媛大学法文学部人文学科の諸先生方と、新潟大学人文学部からは關尾学部長、桑原研究担当副学部長とで情報交換を行い、さらに今後の両学部の研究交流のあり方について意見交換を行いました。

学術交流講演会終了後は、場所を移して懇親会を開催していただき、松山のおいしいお料理をいただきながら和やかな時を過ごすことができました。

10月30日(日)には「四国遍路と世界の巡礼」研究集会が愛媛大学法文学部で開催されることが決まっており、新潟大学人文学部からは青柳かおる准教授が「イスラームにおけるメッカ巡礼と聖者廟参詣」と題して講演いたします。このように愛媛大学法文学部と新潟大学人文学部との研究交流は活発に行われております。新潟大学人文学部で開催する場合には皆さんのご協力をお願いする次第です。

(文責:桑原 聡)