●報告:国際シンポジウム「ドイツ・ロマン派の時代の危機意識とユートピア」
国際シンポジウム「ドイツ・ロマン派の時代の危機意識とユートピア」
Das Krisenbewusstsein zur Zeit der Romantik
und Utopievorstellung
日時:2012年2月28日(火)12:30〜
2012年2月29日(水)09:30〜
場所:新潟大学 五十嵐キャンパス
総合教育研究棟D棟1F大会議室
2月26日夜にドイツ・ビーレフェルト大学からWolfgang Braungart教授(ドイツ文化)、Jan Andres博士(ドイツ文化)、それとオーストリア・ザルツブルク大学Thomas Schirren教授(古典学)が新潟にお着きになりました。ビーレフェルト大学言語文学部長であるKai Kaufmann先生はご都合のため今回は来潟できませんでしたが、お詫びと国際シンポジウムの盛会を祈る、丁寧なメッセージをお寄せくださいました。
2月28日、29日とシンポジウムを開催いたしました。今回は「ドイツ・ロマン派の時代の危機意識とユートピア」と題し、ドイツ語によって行いました。
18世紀と19世紀の交わる頃、ドイツ・ロマン派の時代の人々はイギリス産業革命、フランス革命に象徴される「近代」の問題と直面し、独自の思想と将来のヴィジョンを展開いたしました。それから200年経った現在、私たちは「近代」の一つの帰結としての危機を体験しております。この「今」からドイツ・ロマン派の思想と文学を読み直すことによって何が見えてくるのかを考えてみようというのが今回のシンポジウムの趣旨でした。
ロマン派の時代からおよそ二世紀を閲した今、様々な困難を孕む今に生きる私たちがユートピアに対して懐疑的にならざるをえないのは避けがたく、そのことが過去の対象の解釈に、意識するとしないとにかかわらず、ある種の影響を与えていることは否定し得ない事実でしょう。しかしながら、彼らが構想した、ないしは構想しようとしたユートピア、たとえそれがどんなに微かなものであったとしても、それと今一度真剣に向き合い、過去の「あり得たかもしれない可能性」について考えることが、混沌の「今」にあって、必ずしも無益なことではないだろうと考えた次第です。
議論は、神学、神秘思想、自然科学、歴史・政治意識、言語論、文化批判等多岐にわたり、白熱いたしました。大幅に時間を超過し、29日は昼食をとりながらの議論となりました。結論はもとより求めておりませんでしたが、幾つかの論点において理解が深まり、対立点が明らかとなり、今後数回のシンポジウム開催に十分な問題点を明確化することができたのが、最大の成果だったと考えています。
簡単ながら国際シンポジウムの報告をいたします。
(文責:桑原聡)
プログラム概要
- Dr. Jan Andres (Bielefeld)
- Romantik und Kulturkritik.
- Prof. Dr. Wolfgang Braungart (Bielefeld)
- "Wie aus Nichts…ein fester Punkt". Ein Kommentar zu Friedrich Schlegels ,Gespraech ueber die Poesie‘.
- Prof. Dr. Kai Kauffmann (Bielefeld)
- Zweite Romantik? Rudolf Borchardts Programm der "Schoepferischen Restauration".
- Prof. Dr. Thomas Schirren (Salzburg)
- Die Entstehung der Romantik aus dem Geiste der Kritik: Schlegels Philosophie der Philologie als Beginn der Universalpoesie.
- 桑原 聡(新潟大学人文学部教授)
- 「ノヴァーリスにおける〈百科全書学〉のモデルとしてのクンストカマー理念」
- 松原 良輔(埼玉大学教養学部教授)
- 「アイヒェンドルフにおける予型論的歴史叙述と国民記念碑理念--『マリーエンブルクのドイツ騎士修道会居城の再建について』をめぐる一考察」
- 岡本 和子(大東文化大学外国語学部准教授)
- 「クレメンス・ブレンターノにおける『子どもの言語』の理念と詩論」
- 坂本 貴志(山口大学人文学部准教授)
- 「世界の複数性と〈ヘン・カイ・パン〉」
- 武田 利勝(駒澤大学総合教育研究部講師)
- 「ユートピア的仮象の探求-- フリードリヒ・シュレーゲルの『旅書簡』について」