第23回新潟哲学思想セミナーが開催されました。 【NiiPhiS】
第23回新潟哲学思想セミナーは、講師に九州産業大学の藤田尚志先生、福岡大学の宮野真生子先生、さらに学部を超えて新潟大学法学部から大島梨沙先生をお招きし、「家族の『きずな』を哲学する――私たちをつなぐものはどこにある?」というテーマのもと開催されました。本学人文学部からも宮﨑裕助先生、阿部ふく子先生が講師として登壇され、計5人の先生にお話いただきました。以下、今回のセミナー内容をご紹介させていただきます。
阿部先生のお話は、ヘーゲル哲学が家族をどのように捉えているかというものでした。ヘーゲルにおいて、家族は確かに倫理的共同体ではあるが、(国家と比べると)絶対的持続は求めることはできないものであると言います。家族の絆は、確かにあるが、それは弱いものだとヘーゲルは捉えていたということでした。
宮﨑先生は、親子関係、なかでも親子関係の「きずな」について、デリダの哲学を用いて問い直そうというお話でした。家族の絆は、遺伝子や血といった生物学的な事実に還元できるのではなく、人と人が「信じる」ことによるものではないか、ということでした。
藤田先生のお話は、ヘーゲル、デリダ、バトラーの『アンティゴネ―』読解を通して、家族関係を考えるというものでした。それらの読解を見ていくことで、例えば家族関係において男性=父親、女性=母親なのか、カップルモデルが家族の条件なのか、新たな家族関係を考える可能性を与えてくれるのではないかということでした。
宮野先生は、近代日本哲学から「愛ある結婚」「愛ある家族」のイメージに託されているものについて述べられました。「結婚」というものを愛・性・家族という三位一体から捉えられました。そして、日本人の理想とされている結婚の状態を、理想の家族No.1とされている田中将大夫婦を例に挙げつつ「好きになって(愛)、子どもを作り(性)、温かい家庭を築く(家族)」という状態と考えられているとされました。そこから、そのような結婚は果たして自由・平等なのかというお話をしていただきました。
大島先生は、家族の「きずな」と法の役割を結婚制度と契約制度との比較より述べられました。契約制度の中には、フランスの「民事連帯契約(パックス制度)」とよばれる共同生活のための特殊な契約が存在しており、大島先生はこの制度と結婚制度を比較されました。その結果、家族の「きずな」における法の役割として、⑴「きずな」の可視化、⑵「きずな」の保障、⑶「きずな」の選別という三つを挙げられました。
今回のセミナーでは、最も身近な共同体といっても過言ではない「家族」の在り方について、哲学や法制度を通じ深く考えるという貴重な機会となりました。中には一般の方で、自身の家庭とセミナー内容を照らし合わせ、新たな発見をされた参加者の方もいらっしゃいました。
最後になりましたが、今回のセミナーのために遠方からお越しいただいた、藤田先生、宮野先生、及び法学部よりご参加いただきました大島先生に感謝を申し上げ、拙文ではありますが第23回哲学思想セミナーの報告とさせていただきます。
[文責=新潟大学人文学部人文学科 心理・人間学プログラム専攻 藤本雅也、藤木郁弥]