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2018年1月 アーカイブ


2018年1月28日

松森晶子(他)『日本語アクセント入門』 書評と正誤表  【言語学】

2017年度2学期の「言語学演習」では松森(他)(2012) を通読しました.本書を選択した主な理由は次の通りです:

・「言語事実に基づいて言語分析を行う」ことの訓練として,日本語アクセントにおける音声的事実から音韻論的解釈を引き出すことを事例として学べる

・母語話者が無意識に活用している知識や法則を改めて掘り起こすことの訓練として,文字に書かれることのない点でアクセントが適している

・日本語諸方言の分析は,(個々人で事情の異なる既習言語とは異なり)ゼミ生の誰にとっても平等になる形で「非母語研究」を行うことが可能

・方言間の比較や通時的資料の検討を通じて,共時的研究だけでなく通時的研究にも触れることができる

本書が入門書として優れていることは間違いありません.しかしながら管見の限りでは,ローレンス (2013) を除き書評が出ていないようです.一方で「言語学演習」を通じて,新たに訂正すべきと思われる箇所も見つかりました.今後,本書を読む方々のためにも,ここに書き留めておきたいと思います.以下の正誤表作成にあたっては,「言語学演習」受講生諸君の多大なる貢献に感謝いたします.

[第1章] アクセントとは何か

[第2章] アクセントのしくみ

[第3章] アクセントの規則
 p.34の(2): 「平板型」には「起伏型」(仮定形)も含まれる.たしかに対立は保たれているが命名を「平板タイプ」などにして工夫する余地がある

[第4章] 助詞のアクセントと句音調
 p.53のコラム下から2行目: 下げ核の表記は(*)ではなく(')で良い

[第5章] 2型アクセント-鹿児島方言 
 p.66の(11):「ナッ」は下降調表記をすべきでは?
 p.70の(18): 「〇〇式」を複合語とは断言しにくい.本書では他の箇所でも複合と派生の区別があいまいである

[第6章] 3型アクセント-隠岐島の方言

[第7章] アクセントの単位
 p.97の(4)など: 上線による音調表記は音声実質に近づけているのか音韻解釈を施したものなのか,揺れているようだ.例えば2拍目が促音「ケッコンシキ」では3拍目から高くする(音声的)のに対し,2拍目が長音「ニューシャシキ」では2拍目から高くしている(音韻解釈を施している)
 p.99の(6): 東京方言における「担う単位」としての音節を設定するメリットはあるのだろうか?(拍だけで考えた方が経済的のように思う).この分析では「拍」「音節」「主母音」と説明の道具が多くならざるを得ない.
 7.4節: 「後ろから2つ目」の意味する内容が「拍」((10)の2行上)と「音節」((10)の1行下)で揺れる

[第8章] 声調のある方言
 p.109の(3): 4拍語のL1のモーラ数を示す〇が1つ足りない
 p.120の(14)(エ): 「⑥上昇式」に対する説明がない

[第9章] 外来語のアクセントと生産性
 p.127の下から2行目: アクセント核の位置に誤り.正しくは「アルバ´イト」(ローレンス (2013) にも指摘あり)
 p.129の4行目: 「ナガネギ」は平板型の方が一般的なので代わりに「タマネギ」を用いるのはどうか
 p.131の(8c)が欠けている(代わりに(8d)がある)
 p.136の(14): 「アニメーション」の長音が全角ハイフンになっている,「ハンディキャップ」の短縮語は一般的には「ハンデ」であり「ハンディ」は長音化し4拍語になることも,(アスパラガス)の後に読点が抜けている.(なおローレンス (2013) には「リストラ」に関する指摘あり)
 p.139のコラム: 頭高型の「ソ'ーセージ」が示されているが一般的には中高型の「ソーセ'ージ」
 p.143の3.の(10)「コンタクト」に(コンタクトレンズの意味)と注記があるが,「接触」など他の意味でも同じアクセント型ではないか? なお4.の(9)「マジック」は筆記具の場合と「手品」でアクセント型が異なる例

[第10章] 複合語のアクセント(1)
 p.154の(12d): すべて-3に特殊モーラの例が挙げられており,これらのみからは規則が「ー3」なのか「ー4」なのか判断できない.「宇宙コロニー」なども含めるべき
 p.157の最下行: アクセント核の位置に誤り.正しくは「×イチゴ'-ジャム」(ローレンス (2013) にも指摘あり)
 p.159の最下行: 「ミスプレー」は「フェアプレー」の誤り
 p.161の1行目: 「モノヤワラカ」は形容動詞なので「複合名詞」とは言えない

[第11章] 複合語のアクセント(2)
 p.175の(10):  京都方言の「カブカ」(H3)等を「中高型」と呼んでも良いのだろうか?
 p.175の(10): 東京の「フェアプレー」の上線の引き方にミスがある

[第12章] アクセントの歴史を知る
 p.185の3行目: 「(1)のリストの中では...」とあるが(1)には「夏」が無い.8行目も同様
 p.197の下から9行目: 「互いに語源」は「同源」の誤りか
 p.198の下から2行目: アシ(低平)にアスタリスクが抜けている

[第13章] アクセントと音韻

 

参照文献

松森 晶子・新田 哲夫・木部 暢子・中井 幸比古(編) (2012) 『日本語アクセント入門』三省堂.

ローレンス ウェイン (2013) 「〔紹介〕松森晶子・新田哲夫・木部暢子・中井幸比古編著『日本語アクセント入門』」『國學院雑誌』第114巻第6号,15-17.

2018年1月 8日

ヘーゲル・アーベント2017が開催されました。  【イベントの記録】

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12月26日に毎年恒例のヘーゲル・アーベントが開催されました。本学を退官された栗原隆先生による「生理学心理学を呑みこみながら──湧き立つ精神哲学」と、人文学部の阿部ふく子先生による「P4C(Philosophy for Children)の理論と学校・地域での実践報告」という発表があり、研究会のあとは人間学資料室で忘年会を兼ねた鍋パーティーがありました。

2018年1月10日

卒業論文研究計画書の提出について  【お知らせ】

心理・人間学プログラム人間学分野の3年生(来年度末卒業予定者)へ

人間学分野に所属する来年度末(2019年3月)卒業予定の学生は,1月10日までに卒業論文研究計画書を必ず提出すること.

この計画書は,卒業論文作成に向けた作業の第一歩となります.計画書には、下記の内容をA4用紙1~2枚を用いて的確かつ簡潔に書いてください.

提出された計画書にもとづいて来年度の卒論指導教員を決定します.指導教員の決定がなされないことには,卒業論文の単位も認められないことになりますので注意してください.

1 研究の課題(題目)
2 論文の概要と今後の研究計画
3 使用文献、参考文献


提出期限 2018年1月10日(水)15:00
提出先  江畑研究室(F581)  *不在のときはドアの前の箱に入れてください

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