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2011年3月 アーカイブ


2011年3月29日

卒業論文を紹介します  【お知らせ】

大学4年生にとって一番の大仕事は卒業論文の執筆である。なにしろ4年間の学業の成果を一本の論文という形にまとめなければならない。はじめての挑戦にはいつも波乱がまっている。学生も大変だが、われわれ教員のほうも毎年はらはらしている。

卒論は完成にまで至るプロセスも長い。人間学履修コースでは、3年生の冬にテーマを決め、4年生の春から初夏の構想発表会で頭だし、10月には中間発表会と題目提出を経て、秋から冬にかけて怒濤の追いこみ、晴れて1月に提出、1月か2月に卒業論文発表会と口頭試問、という次第である。

当然3年生には来年の卒論は大きなプレッシャーだろうし、また大学1・2年生やさらには高校生のみなさんにとっても、人間学ではいったいどんな卒論が提出されているのか、興味のあるところだろう。ところが、じっさいに提出された卒論をみる機会はなかなかない。過去の卒論の一部は人間学PSや言語学実験室に保管してあって見学できるし、オープンキャンパスなどでも展示しているが、やはり機会に恵まれない人もいるだろう。

そこで今回こころみに、今年度に指導した卒業論文から一篇をインターネット上で公開することを思いたち、このたび卒業する佐藤茉莉さんにお願いしたところ快諾を得た。先の記事に、人文学部のHPの履修コース紹介に公開されている卒業論文の概要を再掲載するとともに、執筆者(著作者)である佐藤さんの同意を得て、卒業論文『アウグスティヌス『告白』の時間論──人間学的側面からの再構成』全文のPDFへとリンクを張ってある。

【卒論】アウグスティヌス『告白』の時間論  【卒論・修論の紹介】

アウグスティヌス『告白』の時間論──人間学的側面からの再構成(概要)
                       佐藤 茉莉

 『告白』は、397 年から翌年にかけて書かれたアウグスティヌスの自伝である。彼は、この著書の中で時間について探求した。我々にとって時間は、大変身近なものであり、熟知されていると思われるかもしれない。しかし、「時間とは何か」と問われたとき、我々は誰もその本質を容易に答えることはできない。アウグスティヌスが考える時間を、人間の魂の内部に注目し、人間学的立場から考察することで、彼が、人間の存在と時間の関係性についてどのように考えていたのかを明らかにする。
 第一章では、「物体の運動=時間」の否定の証明のために、二つの議論を持ち出して論じた。一つは、アウグスティヌスと対照的な立場として知られるアリストテレスの時間論を持ち出し、比較して考察した。アリストテレスの時間論と比較しても、アウグスティヌスの時間論は人間存在に多分に依存している。二つ目は、「天体の運動=時間」であるという哲学者に対するアウグスティヌスの批判が、壁にぶつかりながらも成功していることを証明した。よって物体の運動は時間ではない。
 第二章ではまず、過去・未来の非存在、現在中心主義について論じた。しかし、過去になった途端に次々消えていくなら、我々はどのようにして持続した知覚を持つのだろうか。また、過去・未来の非存在、幅のない現在により、時間の計測が不可能となった。ここではアウグスティヌスの時間の計測の条件の一つが、物体の運動こそが実在的であるとした、アリストテレスの時間の経過を感じるための条件に酷似していることが問題となった。計測の不可能の解決策として、過去・未来は記憶(memoria)、期待(expectatio)として現に存在し、これらの働きによって、我々は持続した知覚を持つことができる。ここで忘れた過去について、そして期待と未来の食い違いについての二つの疑問にぶつかる。
 第三章では、魂(anima)のうちに印象(impressio)を刻み込むことにより時間を測っているというアウグスティヌスの結論を扱った。このことで時間は計測できないとされていた様々な問題が解決された。さらにこのことから、魂のうちで時間を測るということは、アウグスティヌスは外的時間は存在しない、内的時間だけが真の時間であると考えていることが見えてきた。最後は、魂のうちで時間を測る問題点を挙げ、魂のうちで時間を測るとは、具体的にどのようなことをさすのか、アウグスティヌスのテキストや、その他の論文から見出すことを試みた。アウグスティヌスは、外的なものである時間を、自分の中で時間がどのように体験されるかという内的な時間にすり替えてしまったという批判を想定し、その批判は妥当であるか、これまでのアウグスティヌスの議論を追って検証した。また、時間を計測するには、基準が必要であるが、内的時間の基準の問題についても、過去と未来に魂が現在的に拡がっている魂の拡がり(distentio animi)を基準の時間とすることで、魂のうちで時間を測るとは、具体的にどのようなことを言っているのか輪郭が見えてきた。第二章で出てきた過去や未来の問題についても、アウグスティヌスの考えを受けて、どのような解決がなされるか論じた。

→『アウグスティヌス『告白』の時間論』PDF全文

人間学の教員を紹介します  【教員の紹介】

【生命環境倫理学・近世哲学】
栗原 隆(教授)KURIHARA TAKASHI
ヘーゲルを中心とするドイツ観念論の思潮を掘り起こしながら、「疑う」ことに思索の原動力を求めるとともに、〈自分とは何か〉を知ろうとする知的な営みにこそ、〈主体〉の成り立ちがあることを研究しています。他方で、生命倫理や環境倫理の問題に即しながら、私たちは自分の身体に自由に手を加えていいのか、エゴイズムはなぜいけないのか、私たちの自由に限界はないのかなど、身近な倫理的な問題を解き明かそうとしています。

【哲学・西洋近世哲学史】
城戸 淳(准教授)KIDO ATSUSHI
カントの批判哲学を焦点にして、おもに近世の西洋哲学史を研究しています。私という在りかたの意味は何か? この人生が夢ではない証拠はあるか? そもそも世界はなぜ存在するのか? なぜ私は道徳的であるべきか? カントをはじめ、デカルト、ロック、ライプニッツ、さらにはニーチェ、フッサール、ハイデガーや、英米系の現代哲学など、近現代のさまざまなテクストを読み解きながら、哲学の問いのなかで思索を続けています。

【哲学・現代思想】
宮﨑 裕助(准教授)MIYAZAKI YUSUKE
専門はヨーロッパの現代哲学です。関連して美学、倫理学、言語や政治の理論等も幅広く研究しています。現代は多様な世界観が混沌としてせめぎ合い、将来を見通すことが本当に難しくなっています。迷宮のように入り組んだ現代思想の水先案内人としての役目を果たすことで、学生の皆さんには、思想や哲学の面白さに触れ、次の時代を生き抜くための知をつかみとってもらえればと願っています。

【中国思想史】
中西 啓子(教授)NAKANISHI KEIKO
禅文献から唯識思想まで、わけのわからない漢文ばかり取り組んでいます。また趣味と実益をかねて、中国の名所旧跡、とりわけ寺院を訪ねて歩き回ることにしています。

【科学史・科学基礎論】
井山 弘幸(教授)IYAMA HIROYUKI
研究と称するには些か抵抗を覚えるけれど、在籍した25年間を振り返ると結構いろいろなことに首をつっこんでいる。助手時代は「18-19世紀の英国の自然哲学史」、その後は「文学の中の科学」という新領域、特に「ユートピア思想と科学」「宮澤賢治と科学」「サイエンス・イメージ論」の文献を読み漁った。もとより「科学的合理性」の主題とは関わってきたが、途中から「偶然論」へと問題転移した。近年は「お笑い」の理論・事例研究で忙しい。

【言語学】
福田 一雄(教授)FUKUDA KAZUO
言語学は言語の仕組みや使用面について研究する学問分野です。私たちは毎日言語を使い、言語に取り巻かれて暮らしていますが、その存在をあまり意識しないものです。しかし、いざ研究の対象として言語を取り上げてみると、その体系性、複雑性、柔軟性、創造性に驚きます。私は、言語の姿をその形式と意味・機能、社会的相互作用、テクスト・談話との関連で幅広く捉えることを念頭に置いて研究しています。

【宗教学・イスラーム思想史】
青柳 かおる(准教授)AOYAGI KAORU
ガザーリー(1111年没)を中心に、アラビア語の文献を読みながら、古典時代のイスラーム思想史、とくにスーフィズム(神秘主義)を研究しています。ガザーリーの「婚姻作法の書」を翻訳し、婚姻、女性、セクシュアリティーについてスーフィズムの視点から研究してきました。最近は、現代のイスラーム法学者の文献も分析し、古典時代から現代までのイスラームの女性問題および生命倫理問題の変遷を明らかにしたいと考えています。

(新潟大学人文学部 GUIDE BOOK 2011より)

2011年3月23日

学位授与式のお知らせ  【お知らせ】

卒業予定者の皆さんへ
 中止となった新潟大学卒業式・卒業祝賀会に代わり、人文学部として学位記授与式を下記の要領により行うことが決まりましたので、お知らせします。

日 時: 平成23年3月23日(水)午後1時30分から
会 場: 五十嵐キャンパス総合教育研究棟

1 学位記授与(午後1時30分から)
 行動科学課程:B354 教室

2 学位記授与式(午後2時から)
 E260教室

詳細は、こちらのPDFにてご確認下さい。

卒業式・卒業祝賀会中止のお知らせ  【お知らせ】

下記の通り、本年度の卒業式は中止となりましたのでお知らせします。

         *      *      *

平成22年度人文学部卒業予定者の皆さんへ
3月23日に予定されていました新潟大学卒業式と人文学部卒業祝賀会は中止になりました。
これにかわり、同日午後、五十嵐キャンパスにおいて学位記を授与します。
詳細は追って連絡しますので、ご出席くださいますようお願い申し上げます。
3月17日 人文学部長 關尾史郎
[学部HP]http://www.human.niigata-u.ac.jp/
[全学HP]http://www.niigata-u.ac.jp/gateways/admissions/10_admissions_follow_7.html

2011年3月22日

【日記】卒業生諸君へ  【】

このたびの2011年3月の東北地方太平洋沖地震では、地震と津波によって多くの人命が奪われ、街や村が壊滅し、放射能汚染も広がり、いまだに被災者の苦難は続いている。このような困難な時に大学を卒業するみなさんに私は、かつて1995年の阪神・淡路大震災のあと恩師・野家啓一先生が語ってくれたことを思い起こしつつ、はなむけの言葉を贈りたいと思う。

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2011年3月20日

山崎幸雄先生退職記念講演会・記念パーティー  【お知らせ】

   【本企画は予定通り実施します】

ご案内
 寒中お見舞い申し上げます。約三十年の長きにわたって新潟大学人文学部人間学講座で教鞭をとられた山崎幸雄先生が、この三月をもちまして定年をお迎えになります。これを機会に山崎先生を囲んで講演会と記念パーティーを実施いたします。人間学履修コースや旧哲学科を卒業された学生の方々、人間学にゆかりのある方々にお集まり頂きたくご案内を申し上げます。御多忙の折恐縮ではありますが、ご都合の許される限りおいでを賜りたくお願いいたします。

退職記念講演会
日時 3月20(日) 午後3時~5時半
揚所 ときめいと (新潟大学駅南キャンパス)
   (新潟駅南口に隣接、プラー力1の2階、ジュンク堂の階上です。)
TEL 025-248-8141

記念パーティー
日時 3月20(日) 午後6時~8時
場所 チサンホテル「湯沢」の間
   (プラー力1の4階、講演会会場のすぐ上です。)
TEL 025-240-2111
会費 6000円

 後半の「記念パーティー」にご参加して頂ける方は、準備の関係上、ご面倒をおかけしますが、以下のいずれかの方法でご連絡をお願いいたします。
メール iyama@human.niigata-u.ac.jp
電 話 025-262-6573 (研究室=留守電になっていますので録音して下さい)

※ 本状は同窓会名簿を参照してお送りしておりますが、かなり大勢の卒業生の現住所が不明になっております。そこでお願いなのですが、同期・同窓の方にも機会がございましたら、上記の内容を伝えて頂ければ幸いです。

幹事・井山弘幸(人間学講座)

2011年3月 9日

フィクションとリアリティー  【お知らせ】

NiiPhiSロゴ8 第8回 新潟哲学思想セミナー(NiiPhiS)

シンポジウム
フィクションとリアリティー
『フィクションの哲学』
清塚 邦彦(山形大学教授)
「フィクションとは何か:フィクションと現実という対比について」
井山 弘幸(新潟大学教授)
「お笑いにおけるリアルとは何か」
日時 2011年3月9日(水) 16:00~18:00
場所 新潟大学 五十嵐キャンパス
   人文社会科学系棟 B棟2階 第一会議室

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