2019年9月14日

第34回新潟哲学思想セミナーが開催されました。  イベントの記録

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第34回新潟哲学思想セミナー(NiiPhiS)は、講師に熊本大学の佐藤岳詩先生をお招きし、「倫理学における真理と誠実さ――バーナード・ウィリアムズTruth and Truthfulnessによせて」というテーマのもと開催されました。

unnamed-4.jpg佐藤先生はまず導入として、ポスト・トゥルースと呼ばれる現代の状況では「客観的な事実」と「個人にとって大切なこと」の折り合いの悪さというものがある、とお話されました。そして佐藤先生はこの問題を考えた哲学者としてバーナード・ウィリアムズを紹介され、彼の最後の著作であるTruth and Truthfulnessについて解説して下さいました。

ウィリアムズによると、現代社会には「真理に対する誠実さへの要求」と「真理それ自体への疑いのまなざし」があり、これらを調停することが現代の哲学の課題であるといいます。誠実であることは「正直さ」と「正確さ」という2つの徳によって成り立っていて、また人が誠実であるためには、現実を歪めるような幻想や願望に抵抗する必要があるのです。「正直さ」に関して、ウィリアムズは嘘をついたときの罪悪感や後悔といった感情に着目し、カント倫理学を批判したと佐藤先生は解説されました。

unnamed-2.jpgしかし真理をめぐる話はここで終わるわけではなく、ウィリアムズによると、現代では真理の実在そのものが信じられなくなってきているために、「真正さ」という理想が出てきているそうです。「真正さ」とは「本当のわたし」が存在しているとする考え方に基づいていますが、それはときにエゴイズムやナルシシズムに陥ってしまうものでもあるといいます。「真正さ」について理解を深めるために、佐藤先生はアメリカの哲学者テイラーを紹介されました。テイラーを踏まえてウィリアムズの主張を読み解くと、自己理解は他者との関係の中でしか育まれないからこそ、人は「真正さ」を貶めてしまわないようにするために「正確さ」と「正直さ」を失ってはいけないのだといいます。

Truth and Truthfulnessの最後でウィリアムズは真理の実在について書いていますが、佐藤先生はウィリアムズの論点の掘り下げの甘さに対して批判をしつつも、ウィリアムズの中心にはアイデンティティを巡る思索があったのではないかと考察をされました。しかしまた同時に、佐藤先生はそこがウィリアムズの限界であり、彼が現代倫理学の枠組みから抜け出せないことの事由なのではないか、ということも示唆されて発表を閉じられました。その後は時間を目一杯使っての質疑応答も行なわれ、興味深い議論が展開されました。ポスト・トゥルースという言葉もすでに目新しいものではなくなってしまった現代ですが、真理というものを取り巻く人間の態度について、改めて深く考えるよい機会となりました。

最後になりましたが、今回のセミナーでご講演頂いた佐藤岳詩先生に感謝申し上げ、第34回新潟哲学思想セミナーの報告とさせていただきます。

[文責=新潟大学人文学部人文学科 心理・人間学プログラム主専攻 牛澤啓]

2019年9月13日

「運」とともに/「運」に抗して──古田徹也著『不道徳的倫理学講義』を読む  NiiPhiS

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第35回 新潟哲学思想セミナー(NiiPhiS)

「運」とともに/「運」に抗して
古田徹也著『不道徳的倫理学講義』を読む

 


古田徹也(東京大学)
宮﨑裕助(新潟大学)
渡邉京一郎(東京大学)

 


日時 2019年9月13日(金)16:30〜18:30 
場所 新潟大学 五十嵐キャンパス
   総合教育研究棟D棟1階大会議室

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テストでヤマを張っていた箇所が「運良く」当たった。信号待ちで次の電車を「運悪く」逃してしまった。人生で起こるこうした出来事が示すように、私たちはときに「運」というものに振り回される。この「運」という要素は、「道徳」(すなわち、「こうすべきである」という「規範」)を扱う倫理学とは、相性が悪いように思われる。だが、「運」が私たちの人生に大きな影響を及ぼすのもまた事実である。「運」と「道徳」は両立するのだろうか。あるいはこう問えるかもしれない。「運の要素を受け入れて取り込む倫理学──言うなれば、不道徳的倫理学──とはどのようなものでありうるのか」──。

第35回新潟哲学思想セミナーは、以前本学で教鞭をとられていた古田徹也氏をお迎えします。今回のセミナーは、今年5月に出版された氏の著書である『不道徳的倫理学講義──人生にとって運とは何か』の合評会となっています。著書の紹介とコメントを本学人文学部を卒業後、東京大学大学院に進学した渡邉京一郎氏にお願いし、もうひとりのコメンテーターとして、本学人文学部准教授の宮﨑裕助氏に登壇していただく予定です。多くのみなさまのご来場をお待ちしております。

 

◎ プロフィール

古田徹也(ふるた・てつや)1979年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京大学人文社会系研究科准教授。専門は哲学・倫理学。著書に『不道徳的倫理学講義──人生にとって運とは何か』(ちくま新書、2019年)、『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(角川選書、2019年)、『それは私がしたことなのか──行為の哲学入門』(新曜社、2013年)他。

宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ)1974年生まれ。新潟大学人文学部准教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学・現代思想。著書に『判断と崇高──カント美学のポリティクス』(知泉書館、2009年)、『ドゥルーズの21世紀』(共著、河出書房新社、2019年)他。

渡邉京一郎(わたなべ・きょういちろう)1995年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程学生。論文に「退屈、技術、故郷──なぜ退屈が根本気分として選ばれたのか」(日本哲学会 web 論集『哲学の門──大学院生研究論集』第1号)。

 

◎ 新潟哲学思想セミナー(Niigata Philosophy Seminar:通称 NiiPhiS[ニーフィス])とは 
2009年に新潟大学を中心に立ちあがった公開セミナーです。新潟における知の交流の場となるよう、毎回、精力的にご活躍の講師をお招きして、哲学・思想にまつわる諸問題に積極的に取り組んでいきます。参加費、予約等は不要です。どなたでもご自由にご参加ください。

主催:新潟哲学思想セミナー
共催:新潟大学間主観研究推進センター
お問い合せは宮﨑まで
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→ポスターはこちら

2019年9月12日

倫理学における真理と誠実さ──バーナード・ウィリアムズ Truth and Truthfulnessによせて  NiiPhiS

第34回 新潟哲学思想セミナー(NiiPhiS) 

倫理学における真理と誠実さ
バーナード・ウィリアムズ Truth and Truthfulnessによせて

講師 佐藤岳詩(熊本大学)


日時 2019年9月12日(木)16:30~18:00
場所 新潟大学 五十嵐キャンパス 総合教育研究棟 D棟1階 大会議室


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◎ 講師プロフィール:佐藤岳詩(さとう・たけし)1979年生まれ。熊本大学文学部准教授。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は、R・M・ヘアを中心としたメタ倫理学と規範倫理学。著書に『メタ倫理学入門──道徳のそもそもを考える』(勁草書房、2017年)、『R・M・ヘアの道徳哲学』(勁草書房、2012年)、『性──自分の身体ってなんだろう?』(共著、ナカニシヤ出版、2016年)他。


◎ 新潟哲学思想セミナー(Niigata Philosophy Seminar:通称 NiiPhiS[ニーフィス])とは 
2009年に新潟大学を中心に立ちあがった公開セミナーです。新潟における知の交流の場となるよう、毎回、精力的にご活躍の講師をお招きして、哲学・思想にまつわる諸問題に積極的に取り組んでいきます。参加費、予約等は不要です。どなたでもご自由にご参加ください。

主催:新潟哲学思想セミナー
共催:新潟大学間主観的感性論研究推進センター

お問い合せは太田まで
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→ポスターはこちら

2019年7月16日

人間学合宿2019  イベントの記録

2019年6月29日~30日、2日間にわたって南魚沼市で人間学合宿を行いました。今年度は、天気予報により合宿当日には高確率で雨が降ることが予想されていました。その予報は残念なことに見事的中し、今回はあいにくの悪天候の中での合宿となりました。

29日の朝10時、新潟大学西門に全員で集合した後、シャトルバス1台と生徒の自家用車1台に分かれて南魚沼へと出発しました。今年は総勢28名と参加人数が比較的多かっため、2台に分かれての移動となりました。

まず初めに立ち寄ったのは「アグリコア越後ワイナリー」です。ここではワインを寝かせる特製の雪室を見学させていただいた後に、ワインの試飲をさせて頂きました。気に入った1本があった人は、お土産用に買ったりもしていました。特にみんなに好評だったのは梅のスパークリングワインでした。

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次に立ち寄ったのは「牧之通り」です。古くは宿場町として栄えた町であり、その景観を残している美しい街並みの通りです。ここには昼食休憩としても立ち寄っており、各々思い思いに昼食をとっていました。バスの集合場所近くの公園で、小さな子たちと交流しているアクティブ(?)な学生達も見られました。

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そして最終的には、今回の宿泊先である「五十沢キャンプ場」に到着しました。今年は例年にない「キャンプ」という形の合宿スタイルをとりました!当初予定していたBBQは、雨のため室内での焼肉となってしまいました。それでもみんなでわいわい下ごしらえをしたり、焼きそばを作ったりして、楽しんでもらえたのではないかなと思います。また翌日の朝ごはんになるカレーも、その際合わせて作りました。みんなで指示を出し合って素早く、適切に調理するというすばらしい団結力を見せてくれました。

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腹ごしらえをした後は、お待ちかねのレクリエーションを行いました(買っておいたほとんどのお酒を焼き肉の時に飲んでしまい、レクの前にお酒を買い足していることは秘密です笑)。今回は5つの班に分かれて、イラストで伝言ゲームをしたり、ヘキサゴン形式でクイズをしたりしました。今回の合宿におけるMVP回答は、やはり「TGC」(正解:Tokyo Girl's Collection)への回答として出た「(T)とっても(G)ガーリック(C)チャーハン」でしょう。

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2日目は、前日に仕込んでおいたカレーを食べることから始まりました。作りすぎてしまい、何人かの学生には朝からヘビーな量を食べてもらいました。

その後、お昼少し前から「八海醸造 魚沼の里」へお邪魔しました。魚沼の里はレストランやお土産屋さん、お酒を寝かせる雪室など複数の施設から成っています。それぞれが思い思いに施設内を回り、クラフトビールを飲んだり、日本酒を試飲したり、お土産に悩むなどしていました。

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魚沼の里が本合宿での最後の観光先であり、そこを出発してからの帰りのバスでは皆疲れている様子でしたが、その中でも一部の学生と教授はワードウルフに盛り上がっていたようです。

今回は異例のキャンプという形での合宿でした。参加してくれた皆さんが少しでも楽しめたなら嬉しいです。人間学内での親睦を深める、充実した時間を過ごせることができたのかなと思います。来年度は天候に恵まれた中、人間学合宿が盛大に敢行されることを祈っています。

[新潟大学人文学部人文学科 心理・人間学主専攻プログラム(人間学分野)4年 渡部諒]

2019年5月29日

卒業論文 構想発表会  お知らせ

平成31(2019)年度 人間学分野 卒業論文 構想発表会

 本年度の人文学部心理・人間学主専攻プログラム人間学分野の卒業論文の構想発表会を、次の日程でおこないます。

 日時 5月 29日(水) 13:00から (18:00頃終了予定)  

 場所 総合教育研究棟 D206

 卒業予定の4年生は、開始5分前までに 発表原稿を 50部 用意して出席してください。 発表時間(質疑応答を含む)として 1人15分 程度を予定しています。なお欠席する場合は事前に、指導教員および江畑まで連絡するとともに、発表原稿50部を指導教員に提出してください。

 2、3年生の参加も歓迎します。特に3年生は来年度にむけた準備になりますので、ふるって参加してください。また発表会のあとに、懇親会を予定しています。是非ご参加ください。

心理・人間学主専攻プログラム人間学分野(2019.4.11掲載)

2019年4月16日

『知のトポス』第14号刊行  知のトポス

 新潟大学大学院現代社会文化研究科共同研究プロジェクト「世界の視点をめぐる思想史的研究」の一環として公刊された『知のトポス』最新号をご紹介します。

『知のトポス』第14号(2019年3月刊、全215頁)

スタンリー・カヴェル「近代哲学の美学的諸問題」宮﨑裕助・高畑菜子訳 ⇒[PDF

ヨハネス・ローマン「西洋人と言語の関係(言述における意識と無意識的形式)〔一〕」阿部ふく子・渡邉京一郎訳 ⇒[PDF

アレクサンドル・コイレ「ヘーゲルの言語と専門用語についてのノート」小原拓磨訳 ⇒[PDF

ゲルハルト・クリューガー「カントの批判における哲学と道徳(五)」宮村悠介訳 ⇒[PDF




2019年3月28日

ご卒業、おめでとうございます。  イベントの記録

3月25日に卒業式ならびに卒業祝賀会がとりおこなわれました。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。

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朱鷺メッセでの卒業式に引き続き、新潟グランドホテルでの人文学部の卒業祝賀会、そのあとは「おでん処じゅんちゃん新潟駅前店」で謝恩会が行なわれました。

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卒業生の皆さん、あらためて卒業おめでとうございます。新天地での皆さんの活躍をお祈りいたします。

2019年3月27日

第33回新潟哲学思想セミナーが開催されました。  NiiPhiS

第33回新潟哲学思想セミナー(NiiPhiS)は、講師に明治大学の長田蔵人先生をお迎えし、本学からは人文学部の阿部ふく子先生に登壇していただき、「〈コモン・センス〉への問い──近代ドイツ哲学の発展史から」というテーマのもと開催されました。

最初に本学の院生である私の方から、「コモン・センス概念史の概略」として、コモンセンスの古代ギリシアとローマの伝統について簡単な説明を行ない、その後お二人の先生に発表していただきました。

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阿部先生は、「コモンセンスと哲学」と題して、そもそも「コモンセンス(常識)とは何か」という問いから出発してお話ししてくださいました。阿部先生は、過去に行なわれた「普通ではないことは非難されるべきことか」という問いでの哲学対話を取り上げ、何もないところからコモンセンスの定義や源泉を探ってみると、コモンセンスと哲学の間にはある種の前提や葛藤があると気づき、両者の境界がわからなくなってしまう、とおっしゃいます。阿部先生は、哲学においては常識と哲学は異なると分断されがちだが、こうした問題には近代の哲学者たちでさえ悩まされていた、と指摘されます。

阿部先生は、このように常識と哲学の関係を論じた哲学者を、近代ドイツの哲学者に絞って紹介されました。18世紀ドイツは、従来の学校哲学から脱却しよう、哲学を世俗化しようという啓蒙思想が興隆した時期であり、一般の人々の「普通の感覚」に配慮した通俗哲学が流行していたと言えます。この通俗哲学は、その後カントや、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルらドイツ観念論の哲学者に批判されることになります。阿部先生は、このような流れにコモンセンスVS哲学という対立を見ることができる、と述べられました。

さらに阿部先生は、このようにコモンセンスVS哲学という構図をもちつつも、啓蒙思想の流れのなかで、哲学は引きこもりすぎてはいけないし、通俗哲学も通俗化しすぎて骨抜きになってはいけないと使命感を抱いて、それを折衷しようとした哲学者がおり、それがニートハンマーである、と説明されました。ニートハンマーによれば、「常識とは哲学がそれと矛盾をきたさぬよう尊重するべき「至上の声」という否定的な基準」であるとされます。常識はそれ自体で普遍的に妥当することを求めますが、哲学によって否定され、しかし哲学もまた、常識の「至上の声」に矛盾することがあってはいけない、とされます。お互いに矛盾することなく両立し、かつ哲学が優位にあるべきというのが、ニートハンマーの主張です。しかし阿部先生は、こうしたニートハンマーの主張では、「常識の妥当性の要求=哲学の要求する妥当性要求」ということが結びつかず、そこを明確化したのがヘーゲルであると強調されました。

bPfsgnaFEX4uulx1553714451_1553714513.jpg阿部先生は、20世紀にコモンセンスに取り組んだドイツ哲学者としてローゼンツヴァイクなどについても言及され、最後に現段階での関心や問いに触れて、発表を閉じられました。

長田先生は、「コモン・センスの哲学と批判哲学」というタイトルのもと、コモンセンスの哲学に対するカントの問題意識を、トマス・リードの主張に照らして捉え直すことで、カントがコモンセンスの哲学に対して抱いている危惧の内実をより詳しく理解すること、そしてその理解を通じて、コモンセンスではなく理性の立場をとるべきであるとカントが考えるのはなぜなのかということについて、お話ししてくださいました。

カントにおいてコモンセンスが問題となった背景には、いわゆる「ゲッティンゲン書評」において、通俗哲学者であるガルヴェとフェーダーがコモンセンスの立場からカントを酷評していたということがあります。「ゲッティンゲン書評」は、『純粋理性批判』の「純粋理性の歴史」のなかで、カントがコモンセンスに依拠する自然主義的方法が形而上学の方法として不適切であると述べたことに対して批判しており、これを受けてカントは『プロレゴーメナ』で再批判を行なっています。とはいえ、カントはコモンセンス自体を否定していたわけではなく、コモンセンスVS哲学とは考えていない、と長田先生は指摘されます。たしかにカントは、経験的認識や道徳的判断においてはコモンセンスの役割を認めています。長田先生は、カントがしようとしていたのは、こうした経験の世界を超えるような、神や自由といった伝統的な形而上学の問題において、コモンセンスをいかに正当化できるのかということであって、コモンセンスをコモンセンスによって正当化することはできないので、カントはコモンセンスから離れていくことになった、と説明されました。

続いて長田先生は、「思考方向論文」について言及され、カントが、形而上学的問題を考察するうえで自分たちの思考を正しく導いていくのは、コモンセンスなのか理性なのかという問いを設定し、そのうえで理性の立場を取っている、ということを説明されました。メンデルスゾーンが『朝の時間』において、コモンセンスと理性を同根の能力とみなしているのに対して、カントは両者を区別しなければならない、としています。長田先生は、こうした区別の内実はどのように持たせられるのかということを考えるために、トマス・リードの議論に目を向けるべきとして、論を展開されました。

IMG_1191.jpeg哲学者は、コモンセンスが正しいものを教えてくれるにもかわらず、それをわざわざ理性の法廷にかけて、理性でもって証明しようとしており、それがそもそもの間違いである、とリードは主張します。リードによれば、私たちは物質的世界や心が存在するということを常識的に知っており、それをコモンセンスが教えてくれる信念として理解しています。リードは、そういう信念を成り立たせている原理は、経験的に得られるものでも理性によって証明できるものでもなく、「信念や知識を伴った把促が、単純把促に先行しなければならない」と主張しています。長田先生は、こうしたリードの主張は、カントが超越論的演繹論で述べている、あらかじめ知性が結合したものでなければ、私たちは分析することができないという主張に非常に近く、ヒュームの懐疑論を乗り越えようとするうえで、二人は同じようなアイディアを持っていた、と指摘されます。しかしながら、物質や心の存在といった信念の示唆を受けるというコモンセンスの原理では、自然神学の問題に直結してしまいます。こうしたことを危惧して、原理の妥当性の範囲をきちんと確定すべきだと考えていた点で、カントはリードと異なっていた、と長田先生は強調されます。

さらに長田先生は、こうしたカントの立場を理解するのに役に立つ概念として、「真理の所有」の主張がある、と指摘されます。コモンセンスの主張は、まさに真理の所有であるのに対して、カントは、真理の所有の主張をしようとするのではなく、私たちが真理を獲得できたかできないかを見極める試金石が理性に求められるべきであると考えます。つまり、理性は自分の主張が間違っているかもしれないと考えることができ、だからこそ、理性に信頼がおける、ということになるのです。長田先生は、こうしたカントの主張こそが、常識同士が衝突したときにはどうするのか、ということを考えるうえで役立つのではないか、ということを示唆されて発表を閉じられました。

フロアを交えた議論では、常識のなかにも精査されて保たなければならない常識があるのではないかといった問いや、尊属殺人重罰規定の違憲判決の話と絡めて、社会通念上という文脈の曖昧さについて議論を投げかけるようなコメントもあり、興味深い討議の場となりました。

最後になりましたが、今回のセミナーのために遠方よりお越しくださいました長田先生に感謝申し上げ、第33回新潟哲学思想セミナーの報告とさせていただきます。

[文責=新潟大学現代社会文化研究科博士後期課程 高畑菜子]

2019年2月14日

卒業論文概要の提出について  お知らせ

卒業論文発表会で発表を行った者は、当日用いた卒業論文概要の電子ファイル(Word等の文書データ)をメールで提出してください。必要であれば、教員による指導に従って修正を行ったうえで提出してください。提出を行った者について、順次、卒業論文の成績登録が行われます。

  • 提出締切:2月14日(木曜)12:00
  • 提出先:太田

不明点は、人間学教員まで問い合わせてください。

2019年2月 9日

人文カフェ2018「聴くということ」  お知らせ

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ポスター(pdf) のダウンロード

思索の冬。人文カフェ2018「聴くということ」vol.5が開催されます。
「人文カフェ」は、人間の基本的な営みがもつ広がりや奥行を、人文学のさまざまな視点から探究してみる開かれた講座です。
今年度の全体テーマは「聴く」について。
どなたでも自由にご参加いただけます。是非お気軽にご参加ください。

開催日程とプログラム

vol. 1 傾聴  11/25(日)14:00-16:30
vol. 2 効果  12/ 9 (日)14:00-15:30
vol. 3 聴衆  12/22(土)14:00-15:30
vol. 4 聴覚  1 / 26(土)19:00-20:30
vol. 5 奥行  2 / 9 (土) 14:00-16:00

(vol. 1:講演+哲学対話  vol. 2-5:講演+質疑応答)

◆講師
阿部 ふく子 | 哲学 (vol. 1 & 5)
高橋 早苗 | 日本中古文学 (vol. 2)
中本 真人 | 芸能論 (vol. 3)
新美 亮輔 | 認知心理学 (vol. 4)
(以上、新潟大学人文学部准教授)

◆ゲスト
高橋 和枝 | 心理カウンセラー (vol. 1)
金子 文絵 | ろうの世界と手話 (vol. 5)
富樫 悠紀子 | 「幻聴妄想かるた」 (vol. 5)

◆会場 新潟大学五十嵐キャンパス総合教育研究棟B棟5階プレゼンルーム

vol.5のみ、会場が駅南キャンパスではなく五十嵐キャンパスになりますので、ご注意ください。

アクセスはこちら(「新潟大学」のサイトが開きます。)

◆参加費無料

◆事前登録制 参加申し込みは こちらから
(別ウィンドウでGoogleフォームの入力画面が開きます。)
※登録なしでもお越しいただけますが、準備の都合上、事前に人数を把握させていただきたいため、できるかぎり登録をお願いいたします。

◆vol. 5 ゲストプロフィール

金子 文絵(ぱっち)
三重県出身。県立高校教員、看護師、桑名市・いなべ市登録手話通訳者。看護師として病院・施設等で勤務後、教員となる。教科は看護。高校2年の時に手話に出会い、ろう者たちとの交流から、聞こえない世界(ろう文化)や手話という言語の魅力を知る。高校3年で県の通訳者資格を取得し、地域の登録通訳者となる。手話歴は23年ほど。最近は通訳だけでなく、歌詞や物語の手話翻訳、筆談カフェなどのイべントを通じ、身近にある異文化を伝える活動をしている。

富樫 悠紀子(とがし ゆきこ)
精神保健福祉士。2011年から6年間、東京都世田谷区にある精神障害者の通所施設ハーモニーに勤務し「幻聴妄想かるた」の活動に関わり、表現活動で人とのつながりを作る面白さを経験する。現在は新潟市の障害者施設で生活支援員をしながら、音楽やアートを通じたコミュニケーションの場を開拓中。

主催: 新潟大学人文学部附置 地域文化連携センター

お問合せ先: 阿部 ふく子(新潟大学人文学部准教授)
f.abe[at]human.niigata-u.ac.jp
([at]を@に換えて送信してください。)

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